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人生と仕事が伸び悩んでるWeb系のおじさん

久方読書日記

ザ・純文学
星への旅 (新潮文庫)

星への旅 (新潮文庫)

  • 作者:昭, 吉村
  • 発売日: 1974/02/26
  • メディア: 文庫
 

死をテーマにした作品が多くある純文学の短編集。友人や家族に屈折した感情を持つ者やサイコパスのようなある人間の、その本人の行動の独白や、翻弄される周りの人間のドラマなどなど。ジメジメしていてとても表向きには語れない性癖や考えばかり描かれるほか、死につながる肉体の描写もなかなか真に迫る生々しさで、後味の悪さも本を閉じてからじわじわ尾を引くような嫌な感覚。

「そうそう、俺はこういう日本文学こそが嫌いなんだよな」というすごく個人的なツボをついた短編がぎっしり詰まった一冊であった。熊嵐を始めとした超自然に対してなすすべのない人間を淡白に冷静に描写する吉村昭のイメージはどこへやら。びっくりして本屋で漂流を立ち読みしてみると、うん、これだ。これが自分の知ってる吉村昭だと。大作家は引き出しが広い。いや、人は変わる、という話でもあるのか。

今の時代の小説のサービス精神
薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)

薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)

 

チャングムの誓いのライトノベルバージョンという雑なようで適格な気もする評判が立っている人気作です。あらすじを聞いてこれは面白いのは間違いなさそうということで、手を出した。案の定面白い。

卑しい身分の主人公が、ある日突然宮廷の召使いになることになり、その持ち前の頭のキレで、宮廷に棲まう病の原因を明かし、死の謎を解き、陰謀を暴き、ガンガン周りを救いそして認められていく、とってもわかりやすいエンターテイメント。

俺TUEEEくらいの有能さで周りを圧倒するそのエンタメ加減と、背中がむず痒くなる色恋描写は美少女文学の古典と言っても良いくらいの立派な様式美が混ざってこれは売れ線傑作痛快ライトノベル。※皮肉じゃないです。

この小説の時代の文化、風土、風俗描写はかなりしっかりかかれているのに、ポップに読めてそれもすごい。うるささがなく自然に楽しく読める。

ちょっと残念なのが、この作品の実質的なヒロインが絶世の美男子である男であることが、男の自分にはときめかず男色感があって読みづらいのと、ミステリ要素は少し薄いというか、一緒に唸って考えたり「あっ」と思ったりするところは少ないところ。ミステリへの執着は感じませんでした(※フェティッシュって書こうとしたけどやめました)

でも総括面白いのは間違いないです。今は3巻読んでます。

あと最後に時代を感じてすごく納得と感心をしたのが、この本の構成です。本一冊ごとに筋として大きな話は完結はしていくのですが、2,30ページの1章ごとに大抵というか、全部かな?オチがあって基本あとぐされがない。それが素晴らしいしとても現代的だと思いました。

多分WEB小説の連載とかゆえのこの形態だと思うんですけど、このサービス精神というか、本から離れてしまいがちな現代人に10分そこらで楽しませてやるぞ、という意気込みが良いですよね。WEB小説がどんどん出版されてるのもわかる気がしました。