0.5人月

人生と仕事が伸び悩んでるWeb系のおじさん

方舟とシン・サークルクラッシャー麻紀が2022年のマイベスト作品です

後味最高のミステリ

池袋ジュンク堂でふらふらとこのミスベスト2022を立ち読みしながら眺めて、帯に書かれた本格ミステリ作家の面々の言葉に惹かれて買いました。法月氏がこれが本格のたった一つの冴えたやり方、みたいなこと書いてあった気がします。後から調べると、SNSなんかでもかなりばずった話題作だそうで、要はこの「方舟」は大衆受けし、本格の文壇が認めた作品だったそうな。

中身ですが、ほんとめちゃくちゃ良かったです。密室パニック、半バトロワでデスゲーム風、で話が進むんですがともかくぐいぐい読ませます。リーダビリティがとてつもなく高いです。なぜこんなに読ませるのかはよくわからないのですが、読んでる最中の没入感がすごいです。文章がうまいんでしょうね。

人物描写とかは、本格ミステリ的にはテンプレですが、主人公にはしっかり感情移入させれるところがあって、そこもラストに掛かってきます。逆にここでしっくりこない人は肌に合わない作品になるのかもしれないです。

で、問題が、この作品の話題のオチ。確かにそこにある事実だけであっとなる仕掛けになっているとは思うんですが、その仕掛けに倫理がテーマにかかってます。そこがいい後味をくれます。読了したのは深夜ですが、次の日の朝にこの小説の場面が何度も強くリフレインしてしまい二度寝を阻害されました。何となく考え起こしてしうまうあの展開、後味が最高です。

本格ミステリ作家ざっくざく

比較的最近?5年くらいの本格と評する作品群もぼちぼち追ったりしてますが、粒ぞろいというか、全くこのジャンルは死んでない、というよりどんどん次世代作家がでてきている感がします。

屍人荘の殺人は、屍人を使った最初の殺人のトリックはお茶目でとっても新しいものだったと思いますし、medium 霊媒探偵城塚翡翠は表紙すら逆手にとったようなオチが爽快でした。

本格ミステリベストのラインナップを毎年追っていると自称できるほど造士が深いわけではありませんが、今回の方舟みたいにちょっと流行った作品をピックするだけでも、新しい謎解き、トリック、オチを作りだそうとする意気込みと、誰が読んでも楽しませるという大衆意識が両立している作品がたくさん輩出されているのは感じます。

SFが死んだ理由とかプロレスが衰退した理由みたいな感じで、よく問題視される〇〇/〇〇じゃない、批評家たちの線引きみたいなのも正しく生きているんじゃないでしょうか。

サラリーマン文学

【書評】面白過ぎる既存「ブンガク」の破壊者──佐川恭一『シン・サークルクラッシャー麻紀』評|古谷経衡 - webゲンロン

書評の引用にある「村上龍でんでん~」で大笑いして買って読みましたが、笑いのポイントはそこだけにおさまりませんでした。ゲットワイルドカラオケやばい。あと笑えるだけじゃない、話の構成自体はちょっと複雑ですが、とてもストレートな文学の熱い話です。買ってページめくったその日にぐいぐい引き込まれてノンストップで読了しました。

サラリーマン文学。というのは自分が勝手に名づけているもので、一般的な言説があるわけじゃないのですが、簡単にいうと、サラリーマンである主人公が社会人生活と家族生活の煉獄に板挟みになっていることろに蜘蛛の糸を垂らされるが、またサラリーマン回帰して認識を改める周りが少し変わって見える、というようなお話です。これが拙者は大好きです。うしじまくんのMR編は漫画における最高傑作です。何巻か忘れた。

文学の力は如何なるや、自分も大学受験浪人時代から大学時代までずっと本ばっかり読んで過ごして、その結果というつもりはないですが、その出口である就活、社会人編で痛い目をみた男ですので、思うところはありました。

読了後のこの高揚感はなんだろうと、感想を話しても9割話は通じないし、実利を説く気にはとてもなれない。時間は相当数費やしてきて、確かに自分の身になっている。後悔だってない。でも、資格を取ったわけでもないし、人に誇れるものでもなく、人との間にある楽しい思い出というものでもない。

教養がつくとか功利主義的で下品な健常者の戯言や、心が豊かになるからとかいうバカっぽくてメルヘンなメタファーなんかでは一向に満足できない文学青年達はこの本でも読んで一緒に文学の良さを考えようず。