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少年だって向かない職業

 

少女には向かない職業 (創元推理文庫)

少女には向かない職業 (創元推理文庫)

 

 『少女には向かない職業』を読みました。桜庭一樹さんの小説は、『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』と『Gosick』と『私の男』を読んでまして、砂糖菓子は正直、大学時代に読んで衝撃を受けた本の一つで、読んでしばらくの間、他にもこんな本はないのかと探したものでした。

時を経て『女には向かない職業』を社会人になってから読んで、こんなミステリないかなと思ってたところに、この『少女には向かない職業』を思い出して、桜庭一樹氏は海外文学好きだろう、これは間違いないだろうと手に取ったのですが、これは『砂糖菓子の弾丸』の文脈そのままでした。

創元推理文庫で、あの表紙ですし、なんでこんなあからさまな桜庭一樹氏のこのラインを、大学生の時、見つけられなかったのか、読もうとしなかったのだろうか、と思い返すと、当時砂糖菓子の弾丸を同時期に読んで感銘を受けた友人がネガキャンして敬遠したような、そんな気がします。間違ってたらすまんな友人。

砂糖菓子の弾丸ってたとえが秀逸すぎる

砂糖菓子の弾丸とはどこか違うベクトルですが、やっぱり文脈は、少女達vs大人、という構図で、同じように感情を揺さぶる物語でした。少女達が遭遇している大人たちの理不尽は、過酷そのものですが、彼女たちの素朴な感情や夏の情景がいやに美しくて、これがなんとも言えません。

それに、桜庭氏お得意の、とある小道具についての秀逸な比喩があります。特に、最期のシーンで持ち出される道具の名には、異様な説得力とやるせなさがありました。

子供達の狭い世界

子供の生きる社会の難しさというのも、大人のそれとは別に、繊細で大変なものですよね。この作品にはそんな描写も目立ちます。 

仲のよい友達とのふとしたやりとりの中で相手の少しの意地悪があったり、ちょっとした価値観のすれ違いがあったり、色恋で辛い思いをしたり、家庭環境の違いからくる孤独感があったり、それでも明日も学校があって、寄り道をしても家には帰らざる負えない、そんな日々です。

主人公と鍵となる同級生の女の子は、同じ家庭に悩みを抱えた女の子です。主人公が活発で冗談が面白いクラスのムードメーカーのような子であるのと、対照的に、その女の子はメタルフレームの眼鏡で教室で静かに座っているような女の子です。

二人は、夏休みに学校の外で出会うことになるのですが、この同じような孤独を抱える女の子は、とある廃墟で出会い、お互いかなり心を通じ合わせるような描写があります。

お互い自分の好きなものを持ち込んで、ずっと夢中になっているような時間なのでして、この作品の中で一番温かい時間かもしれません。

そして、この二人が、出会ったその場所が廃墟、というのは、つまり物語お約束の『秘密基地』であることに、青春時代特有の美しさと、子供時代のあの狭い世界の過酷さ、あの日々を思いだすのです。

人は経済的に自由にならないとうんぬんかんぬんって

子供と大人の大きな違いの一つは、どこかへ行けるか、自分でどこかへ行ける力を持っているかどうか、なんじゃないかなと思います。

彼女たち少女が家ではないどこかで、何かやすらぎを見出す描写に、自分にもあった、もう戻れないあの小さな現実の過酷さを思いだします。