ディック
自分はPKディックが大好きです。読みだしたのは人生の第二次読書ブームまっただなかの、浪人時代だったと思います。当時の自分のメンタリティにマッチして、すいすい読めました。
ディックさんの話の骨格を簡単に説明すると、主人公は決して逞しくないどこか煮え切らない男、世界観も人物についても説明不足のまま、主人公はなんとなく周りに巻き込まれる形で戦うべき相手に遭遇し、押されながらも最後は友人や家族のために勇気を振り絞って、踏みとどまる、あるいは打倒する、か、負けても何か大切なものを見出すとか。そして、物語の終盤や戦いの後にはディックさん独特の物語のちゃぶ台返しがあります。
ジャンルはSFですが、きちんとした化学的で学術的な論拠でもってストーリーが進むわけではなく、最後にあるそのちゃぶ台返しにあるものは、哲学的な問いに近いものです。
メンヘラのような
かの有名なディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」は人間とロボットの境を問う作品、と読んでない人に理解されがちですが、本来はロボットと人間の判断基準をもって、「人間である私が信じているこの自己意識は本物か」を問う作品です。人間はアンドロイドの自己意識を否定しますが、そのアンドロイドと人間の差をわかつ根拠が危うくなっていくことで、主人公の「自我」が揺さぶられていきます。物語のよくあるパターンとしてはここは「良心」に話の焦点がくると思いますがそこは違います。
※ちなみにこの人間とアンドロイドの判断基準には試験が存在し、また、人間の人間たることの証明としてある「装置」が出てきますが、これが巧みですごく面白いです。ブレードランナーを見た人も本を読むとまた違った印象を受けると思うのでお勧めします。
ディックさんの小説のこの筋書きは一貫しています。薬を使い、宗教を使い、時間を使い、病を使い、ゲームを使い、夢を使い、歴史を使い、劇中の主要人物に問いかけます。「今抱いている私の意識は本物か」
タイタンのゲームプレーヤー
ディックさんはたくさん本を残した方ですが、タイタンのゲームプレーヤーという作品は生前も今もあまり評価が高くないらしい作品の一つです。最近海外ドラマの原作となって放送されたこともあり、書店で平積みにもされている「高い城の男」と、色濃いPKディック臭で、ファンにも人気の力作「火星のタイムスリップ」の間の作品です。
地球を支配しているヴァグと呼ばれるタイタン人とボードゲーム(のようなもの)で戦って土地だったり家だったりを奪いあう話です。そしてこの火星人というのが、人間よりも優れた能力を持っている存在として描かれます。
そんな相手と人生を掛けたボードゲームというわけですから、なんともキャッチーで、これは面白くならないはずがない、と思うわけですが、ボードゲームの描写がなんだか少し迫力に欠けてたり、ストーリーで?となるところも少しあって、ちょっと気持ちが離れちゃったりしなくもないのですが。
最後に、タイタン人と戦っている場面で、テレパシーによって、人間達がタイタン人たちのビジョンを知覚します。そこで見たのは、「いびつで矮小で滅びてゆくだけの種族」である、タイタン人からみた人間の存在でした。
でも、わたしたちの現実以上に現実だというわけじゃない。
タイタン人と意識を共有した人間が言った言葉です。ディックにしては力強い台詞です。自己意識の問題は、強いか弱いか賢いか賢くないか、の問題ではないのです。
ちなみにですが、ディックのちゃぶ台返しはこの後にあります。今回はユーモアっぽくて愉快だったような気がします。
- 作者: フィリップ・K.ディック,Philip K. Dick,大森望
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1990/03
- メディア: 文庫
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