0.5人月

人生と仕事が伸び悩んでるWeb系のおじさん

汁なし担々麺と出会うこと

始業40分ほど前につけば、チームとよべる範囲の関係者で出勤しているものは誰もいない。

コンビニで買った軽食入りのビニール袋を机に投げると、デスクトップPCの電源を立ち上げる。

Web上の出勤の打刻を前に、OneNoteの行きたい飲食店リストが書かれたメモ帳を立ち上げた。

(辛いもの食べたいな)

立ち上げる前からアテはあった。もう何度も繰り返して眺めたページだった。

行きたいと思いたった日には必ず何かが起こり、幾度もたどり着くことが出来なかった店だった。

木曜日が赤く染まったカレンダーを見て決意する。

(今週しかないだろう)

営業日の少ない週なら、いつも以上に気軽だ。体力も余るし、水曜日なら次の日お腹を痛めても問題ない。

貼り付けたノートのロケットニュースのグルメレポートを読むと、テンションが上がって行った。

ネットに夢中になるふりをして、続々と出勤してきた仕事仲間の朝の挨拶をやり過ごした。挨拶をキチンとすることは、人として、また仕事をする上で、とても大切なことだと思っているが、クソメン人見知りの自分にはタイミングが必要だった。

「おはようございms」

と隣に上長が出勤してきたときだけ、か細い声をあげた。エコーするように同じような細い声が帰ってきた。ニュースサイトを閉じると、馴染みのIDEと仕事用のページとしてブラウザにタブを一斉に立ち上げて、仕事にとりかかった。

JIRAに難しいタスクは一つもなかった。今日も平和で順調な1日に違いないと思った。そもそも今の現場に入ってから本当に苦しかったシチュエーションなどは存在しなかったと言っていい。儲かっている企業でお客さんとして働くということは、こういうことなのだろう。

本社のメールBOXには、今の現場の契約更新の希望を確認するメールが届いていた。先週の金曜日に届いたものだったが、なんとなく決めかねていた。ドカタのあるあるでもあるが、確認がきて、延長を希望したところで、延長してもらえないというものはない。そういう場合は、そもそも営業伝いで既にクレームが飛んでいるレベルの場合である。

今の現場の人たちも職場の雰囲気も好きだった。皆余裕があって、ピリピリしてる人など周りには誰にもいない。上長はいいやつだし、リーダーもナイスガイだった。机なども快適すぎて、すばらしい現場で、それでも問題はあった。技術的な面で足りなさを感じていた。

自分の技術力は大したものじゃ無いのだが、こういう教育や雑務なども任せられたりせずに、淡々と技術で向き合える余裕があるのだから、もう少し背伸びしたい気持ちがあった。だから大した技術力じゃ無い自分がなんとか出来ていることが物足りなさだろうか。

人がプロジェクトに参画するにはイニシャルコストが必要だ。今抜けてしまうと、隣の上長含め直近困ることは間違い無いことだった。だが、それはITドカタとして過ごしている自分のこの時間の重みとは違う。これはドカタとして無視すべきだとは思っていた。今年一年でITドカタに不自由さを感じなくもなかった。知っていたはずだったのだが。

朝会がつつがなく終わり、その後先週までのスプリントでこなしていたモジュールをリリースすると、試験も滞りなくパスした。

片手間に先日投げられた依頼事項をこなしては、タスクのチケットに回答を書きこんだ。

昼休みになって、朝買っておいたコンビニの軽食をとって早くに済ませると、朝できなかったことをした。LINEの呼びかけにはすぐに既読がついた。

誘った二人はなんとか来れるとのことだった。一人でも行くつもりだったが、その日が今日になったことがなおさら嬉しかった。友人は平日から予定が詰まっている様子なだけに感謝である。

午前中に回答したチケットの内容について、依頼者のレスがついていた。

末尾にエクストラメーションマークとクエスチョンマークが重ねられたその文面からは、確かな困惑が読み取れた。そもそものこちらの認識から何から全て違うらしかった。

「へへ、スイヤセン」と隣で同じチケットを眺めていた上長に謝ると、上長はニヤニヤしながら「僕も」といった。同じようなレスがタスクのカンバンに並んでいた。どうやら自分と同じ認識らしかった。

困惑する依頼者への回答を上長に任せると、今スプリントの目玉となるシステム改修にとりかかった。

どこから手を入れようかとコードを眺めているばかりで時間は過ぎていった。実装中に何度も要件が変わり、Inputのデータ構造が激しく変わっていった結果から、いつか書いた自分のコードは苦しさに満ちていた。たとえ冷静に書けていたとしても、jQueryのdom積みは辛いに決まっていると思うが。

方針が決まって、集中してくるとイヤホンで耳を塞いだ。BGMはニーアオートマタにした。

定時になると真っ先に会社から飛び出した。

電車でLINEで連絡をとりつつ、まとめサイトを巡回してると、池袋駅にあっという間に到着した。

目当ての店は西口にあったので、西口公園を集合場所にした。一番に西口公園に着くと、ベンチに座って、友人の到着をまった。

ヤンキーが真ん中でたむろっていた。横ではカップルが仲睦まじそうにしている。斜め横にホームレスの寝床が見えた。前方にある飲食店の電灯は派手に主張していたが、背後の芸術劇場は静かに中から灯りをともしていた。

今更ながらカオスな街だなと思う。ベンチに座り、周りを見渡しながら、ポエムを書きたい衝動にかられていた。LINEをみてまだ友人がやってこないことを察してから、澄ました顔でオナラを二発した。

ほどなく友人が一人やってきて、二人やってきたところで、一軒目として評判らしい大衆居酒屋に入った。目的の店は混んでいて入れなかったので、飲んで少し時間をおくことにしたのだった。

賑やかな店で3階まであった。店員の雑な対応含めなんとも大衆居酒屋の風情があって、とても心地よかった。1000円しない2人前の鍋は値段不相応も甚だしかった。

話題は好みの女性のタイプの話になった。北川景子が好きだと言った見た目がヤンキーっぽい友人TTに、TNと二人掛かりでギャルっぽいアイドルやAV女優をあげまくると、嫌な顔をした。

「ギャル、好きじゃねーから」(原文ママ

TNは狸顔が好きで吉岡里穂が好きとのことだった。場は妙な納得感に包まれていた。自分は、エロゲー脳だからテレビを通して見ると女性の顔のタイプがわからなくなるとの旨を伝えると、意味がわからんと二人は首を傾げていた。

TTは今週は今日以外飲み会らしい上に、後輩には奢っているということで何かナイスリーマン感が出ていた、酒豪TNは後輩は下戸だSEは下戸ばかりのザコばかりとそういう趣旨の発言をしていた。

行きたいところなど適当に話していると、一時間は経っていた。店を移る頃合いと言えた。

着くと、丁度一つ四人席が空いていた。五郎が来た店だけあって、遅くなっても席はいっぱいだった。


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一ヶ月くらい引っ張った気がしていた。程なく出てきた料理は、朝目に焼き付けたビジュアルをそのままに、超絶うまかった。舌が痺れると評判の店だが、噂の通りだった。あまり例えようの無い味だった。麺はもちもちしていて、辛さと旨味が同時に主張しまくっていた。餃子も抜群に美味しかった。あざといぐらいの肉汁がタレの甘酢とよくあって、食がすすんだ。

担々麺の辛さの後に、麻婆豆腐の辛さを食らったあたりで、TTが辛い辛いと連呼しだし、すかさずTNは「乙女乙女」と煽りを入れていた。TTは餃子の肉汁を飛ばしながら煽り続けていた。

先日TNと訪れたTTの自宅の話と一緒に暮らす彼女の話になった。早く結婚すればいいじゃないとTNと二人で煽りを入れた。

自分は彼の家に邪魔した時、何か将来性に溢れる若い幸せな家庭に邪魔したような感覚を感じていた。人の良さそうな彼女と、楽しそうに理不尽なゲキを飛ばしつつちちくりあうTTの、二人の姿には、微笑ましさと、羨ましさを感じずにはいられなかった。仲の良い異性と暮らすとはそういうことなのだろうと思った。TTも大体同じ感想を抱いていた。

彼と彼女が結婚して欲しいと思う気持ちが沸いて、気づいたことがあった。自分は今まで新郎新婦の両方とちゃんと会話して見知っていると言える状態で結婚式に参加したことがないことだった。事前にあっても飲みの席で挨拶レベルだった。

今まで祝福して来なかったとは言わないが、正直ベースで50%だったかもしれない。彼等なら心からお祝いできる気がしていた。結婚しなかったらなどとの想像をすると、身勝手ながらそれはギャルゲの望まぬヒロインのルートの結末のように寂しさと辛さを感じた。例によって理解して貰えないと思うが、これはかなり痛切な感情だ。エロゲー脳である。人生はギャルゲである。

辛さにキレ気味のTNは、ほどなくXJAPANのYOSHIKIよろしく「麻婆が辛え」と言って2千円を投げよこして帰って行った。フォローすると、彼の家は池袋から遠いこともある。

二人並んで追加で注文した餃子を食べつつ、映画の話などをしていた。この光景は3人で飲む時よくあることだった。

退店してなお、らあめんが食えそうなTNは、池袋のらあめんの話を始めた。何やら店員の不手際で、つけ麺1人分を男2人で食べたというホモホモしい話を披露してきた。大変笑った。

電車で改めて、営業からのメールを眺めていた。酔いが冷めてからでいいと言い聞かせるも、シラフになった明日も同じように迷っているだろう自分に気づいていた。人と出会うこととは考えたいことを増やすことなのかもしれない、とかダンディーな記事でも書こうかなと考えていた。